第86回日本生化学会シンポジウム「ストレス応答と破綻と病態の新機軸」(オーガナイズ:秋田大学—医化学分野)
第86回日本生化学会において、シンポジウム「ストレス応答と破綻と病態の新機軸」が、2013年9月14日(金)にパシフィコ横浜において開催されました。今回は、熱ショック応答を中心としたストレス応答の分子機構に関して伊藤 英晃先生(秋田大学)、養王田 正文先生(東京農工大学)、中井 彰先生(山口大学)が紹介し、その破綻による病態との関連については水島 徹先生(慶応大学)、足立 弘明先生(名古屋大学)、鵜殿 平一郎先生(岡山大学)、佐藤 昇志先生(札幌医科大学)が発表されました。
伊藤先生は、ミトコンドリアに局在するHSP60が細胞質にも存在し、ATP合成酵素と相互作用してATP量を調整することを示された。養王田先生は、低分子量HSPのHSP16の結晶構造を明らかにし、HSP16による変性蛋白質の抑制機構を紹介された。中井先生は、ストレス応答を制御する転写因子HSF1が別の転写因子ATF1と相互作用することでクロマチン再構成複合体やタンパク質修飾因子群を介したエピゲノム調節を行うことを明らかにしていた。水島先生は、ドラッグリポジショニングの研究から胃粘膜保護薬であるHSP70誘導剤が小腸潰瘍、抗炎症効果、蛋白質変性疾患に効果があることを紹介された。鵜殿先生は、HSP90αノックアウトマウス解析から、HSP90αがエンドソーム中の抗原を細胞質へ移動させるのに必須であることやpiRNA生成に関与することを示された。さらに、足立先生は球脊髄性筋萎縮症での細胞内の防御機構であるUPSやオートファジーの機能について、佐藤先生はがん幹細胞でのストレス応答分子のDNAJB8の機能と免疫療法ターゲットとしての期待について紹介された。
本シンポジウムでは、HSPの構造解析から、ストレス応答による病態での影響や既存薬の効果など広範囲の内容であった。最終日の最終シンポジウムにもかかわらず、多くの聴衆が参加し、それぞれの講演に対し活発な討論がなされた。すべての解析が緻密に行われており、この分野でのさらなる飛躍が期待できることが感じられた。
(医化学分野 藤本充章)